Pythonによる時系列予測モデル構築:Prophetの深層と応用
Facebook(現Meta)が開発した時系列予測ライブラリであるProphetは、その使いやすさと精度の高さから、ビジネスシーンをはじめとする様々な分野で注目を集めています。本稿では、Prophetの基本的な使い方から、より高度な応用、そしてその限界について、詳細かつ網羅的に解説します。
Prophetの基本構造と特徴
時系列データの分解
Prophetは、時系列データを以下の3つの主要なコンポーネントに分解して予測を行います。
- トレンド (Trend): 長期的な増加または減少傾向
- 季節性 (Seasonality): 特定の周期(日次、週次、年次など)で繰り返されるパターン
- 祝日効果 (Holidays): 祝日などの特別なイベントが予測に与える影響
この分解により、各要素の寄与度を理解しやすくなり、個別に調整することも可能になります。
自動化されたハイパーパラメータ調整
Prophetの大きな強みの一つは、最小限のチューニングで高い精度を発揮する点です。特に、季節性の強さやトレンドの柔軟性を制御するハイパーパラメータは、自動的に最適化されるように設計されています。これにより、専門的な知識がないユーザーでも、比較的容易に精度の高い予測モデルを構築できます。
欠損値と外れ値への堅牢性
Prophetは、欠損値や外れ値に対して比較的寛容です。データの前処理段階でこれらの問題に対処する必要性が低いため、迅速なモデル構築が可能です。ただし、極端な外れ値は予測精度に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
Prophetを用いたモデル構築のステップ
データ準備
Prophetで利用するデータは、2つの列を持つpandas DataFrameである必要があります。
- ds: 日時情報。datetimeオブジェクトまたはpandasのTimestamp型であること。
- y: 予測対象の値。数値型であること。
例:
import pandas as pd
data = {'ds': pd.to_datetime(['2023-01-01', '2023-01-02', '2023-01-03', ...]),
'y': [10, 12, 15, ...]}
df = pd.DataFrame(data)
モデルの初期化と学習
Prophetクラスをインスタンス化し、DataFrameを渡してモデルを学習させます。
from prophet import Prophet model = Prophet() model.fit(df)
将来の予測期間の作成
予測したい将来の期間を持つDataFrameを作成します。
future = model.make_future_dataframe(periods=365) # 365日後まで予測
予測の実行
作成した将来のDataFrameをモデルに渡して予測を実行します。
forecast = model.predict(future)
`forecast` DataFrameには、予測値 (`yhat`)、不確実性区間 (`yhat_lower`, `yhat_upper`) などが含まれます。
結果の可視化
Prophetは、予測結果を視覚化するための便利な関数を提供しています。
fig1 = model.plot(forecast) fig2 = model.plot_components(forecast)
`plot`は、実際のデータと予測値を重ねて表示し、`plot_components`は、トレンド、週次季節性、年次季節性などの各コンポーネントの寄与度を可視化します。
高度な応用とカスタマイズ
季節性のカスタマイズ
Prophetは、デフォルトで週次および年次の季節性を考慮しますが、必要に応じて日次季節性や、より長い期間の季節性(例:数年おきの周期)を追加できます。
model = Prophet(weekly_seasonality=True, daily_seasonality=True) model.fit(df)
また、`add_seasonality`メソッドを使用して、カスタムの季節性周期を追加することも可能です。
祝日とイベントの追加
特定の祝日や、予測に影響を与える可能性のあるイベントをモデルに組み込むことで、予測精度を向上させることができます。
holidays = pd.DataFrame({
'holiday': 'christmas',
'ds': pd.to_datetime(['2023-12-25', '2024-12-25']),
'lower_window': 0,
'upper_window': 1,
})
model = Prophet(holidays=holidays)
model.fit(df)
`lower_window`と`upper_window`は、祝日の前後何日をイベントの影響範囲とみなすかを指定します。
外部回帰変数の追加
予測対象の値に影響を与える可能性のある外部変数(例:広告費、気温など)をモデルに組み込むことができます。
df['advertising_spend'] = [...] # 広告費のデータ
model = Prophet()
model.add_regressor('advertising_spend')
model.fit(df)
将来の外部回帰変数の値も予測時に提供する必要があります。
トレンドの柔軟性の調整
トレンドの変動の速さを調整するために、`changepoint_prior_scale`パラメータを使用します。値を大きくすると、トレンドはより柔軟に変化できるようになります。
モデルの評価
時系列予測モデルの評価には、ホールドアウト検証やクロスバリデーションが一般的に用いられます。Prophetは、`cross_validation`関数や`performance_metrics`関数を提供しており、MAE、MSE、RMSEなどの指標でモデルの性能を評価できます。
from prophet.diagnostics import cross_validation, performance_metrics df_cv = cross_validation(model, initial='730 days', period='180 days', horizon = '365 days') df_p = performance_metrics(df_cv)
Prophetの限界と考慮事項
急激な変化への対応
Prophetは、トレンドの変更点(changepoints)を自動的に検出しますが、非常に急激な変化や、予測期間中に発生する予期せぬイベント(例:パンデミック、自然災害)への対応は得意ではありません。これらのイベントが発生した場合は、手動での調整や、より高度なモデルの検討が必要になることがあります。
外部要因の複雑な相互作用
外部回帰変数を用いることは可能ですが、複数の外部要因間の複雑な相互作用や非線形な関係性を捉える能力は、他の高度な機械学習モデルに比べて限定的です。
データ量
Prophetは、ある程度のデータ量があれば良好な結果を示しますが、極端にデータ量が少ない場合や、周期性が明確でない場合は、予測精度が低下する可能性があります。
解釈性
Prophetは、各コンポーネントの寄与度を可視化できるため、ある程度の解釈性はありますが、モデルの内部動作がブラックボックス化している側面もあります。
まとめ
Prophetは、その直感的なインターフェースと優れた予測性能により、多様な時系列予測タスクにおいて強力なツールとなります。特に、ビジネスにおける需要予測、ウェブサイトのトラフィック予測、リソース計画などに適しています。基本的な使い方から、季節性や祝日、外部回帰変数の導入といった高度なカスタマイズまで、幅広いニーズに対応可能です。しかし、予測期間中に発生する予測不能なイベントや、複雑な要因間の相互作用を捉える必要がある場合には、その限界を理解し、必要に応じて他の手法との併用や、より専門的なモデルの検討を行うことが重要です。Prophetを効果的に活用することで、データに基づいたより精度の高い意思決定が可能になるでしょう。
