トランスフォーマーモデル入門:BERTとGPT

プログラミング

トランスフォーマーモデル入門:BERTとGPT

近年、自然言語処理(NLP)の分野で目覚ましい成果を上げているのが「トランスフォーマーモデル」です。この革新的なアーキテクチャは、従来のリカレントニューラルネットワーク(RNN)や畳み込みニューラルネットワーク(CNN)では難しかった、長距離の依存関係を捉える能力に長けています。本稿では、トランスフォーマーモデルの基本概念を解説し、その代表的なモデルであるBERTとGPTに焦点を当て、それぞれの特徴や応用例について掘り下げていきます。

トランスフォーマーモデルの核心:Self-Attention機構

トランスフォーマーモデルの最大の特徴は、Self-Attention機構と呼ばれるメカニズムにあります。従来のRNNは、単語を順番に処理していくため、文の最初の方にある単語の情報が後ろの方に伝わりにくくなるという課題がありました。Self-Attention機構は、文中のすべての単語同士の関連度を計算し、各単語が他のどの単語に注目すべきかを学習します。

Self-Attentionの仕組み

Self-Attentionでは、各単語に対して「Query(問い合わせ)」、「Key(鍵)」、「Value(値)」という3つのベクトルが生成されます。Queryベクトルは、その単語が何を探しているかを表し、Keyベクトルは、他の単語がどのような情報を持っているかを表します。QueryとKeyの内積を取ることで、単語間の関連度(Attentionスコア)が計算されます。このスコアを基に、Valueベクトルを加重平均することで、各単語の文脈を考慮した新しい表現(コンテキストベクトル)が生成されます。

Positional Encoding

トランスフォーマーモデルは、RNNのように単語の順番を自然に捉えることができません。そのため、単語の「位置情報」をモデルに与えるために、Positional Encodingが導入されています。これは、各単語の埋め込みベクトルに、その単語の位置を示す情報を加算する手法です。これにより、モデルは単語の順番を理解できるようになります。

BERT:双方向の文脈理解

BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、Googleが開発したトランスフォーマーベースの言語モデルです。BERTの最大の特徴は、双方向の文脈理解を可能にする点にあります。従来の言語モデルの多くは、単語を左から右、あるいは右から左へと一方的に処理していました。しかし、BERTは「Masked Language Model(MLM)」という手法を用いて、文中の単語をランダムにマスクし、そのマスクされた単語を前後の文脈から予測します。これにより、単語の意味が周囲の単語との関係性においてより深く理解されます。

BERTの学習

BERTは、大量のテキストデータを用いて、以下の2つのタスクで事前学習されます。

  • Masked Language Model (MLM): 文中の一部の単語をマスクし、その単語を予測するタスク。
  • Next Sentence Prediction (NSP): 2つの文が連続しているかどうかを予測するタスク。

これらの事前学習により、BERTは言語の一般的な知識と文法構造を習得します。その後、特定のタスク(質問応答、感情分析など)に合わせてファインチューニングすることで、高い精度を発揮します。

BERTの応用例

  • 質問応答システム: 与えられた文章の中から質問に対する答えを見つけ出す。
  • 文章分類: 文章のトピックや感情を分類する。
  • 固有表現抽出: 文章中から人名、地名、組織名などを特定する。
  • 機械翻訳: ある言語の文章を別の言語に翻訳する。

GPT:生成能力に特化

GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAIが開発したトランスフォーマーベースの言語モデルです。GPTシリーズは、その強力な文章生成能力で知られています。BERTが文脈理解に重点を置いているのに対し、GPTは「Decoder-only」アーキテクチャを採用しており、与えられた入力に基づいて次の単語を予測するタスクに特化しています。

GPTの学習

GPTは、大規模なテキストデータセットを用いて、自己回帰的な言語モデルとして事前学習されます。これは、文の最初から順に単語を生成していき、それまでの単語列に基づいて次の単語を予測する手法です。GPT-3などの大規模モデルでは、そのパラメータ数が数十億から数千億に達しており、膨大な知識と生成能力を獲得しています。

GPTの応用例

  • 文章作成: ブログ記事、メール、詩、コードなどを生成する。
  • 対話システム: 自然な対話を行うチャットボット。
  • 要約: 長文の文章を短く要約する。
  • コード生成: 自然言語による指示からプログラムコードを生成する。

BERTとGPTの比較

BERTとGPTは、どちらもトランスフォーマーアーキテクチャを基盤としていますが、その目的とアーキテクチャに違いがあります。

アーキテクチャの違い

  • BERT: Encoder-only。双方向の文脈理解に優れ、文章の理解や分類タスクに適しています。
  • GPT: Decoder-only。自己回帰的な生成能力に特化しており、文章作成や対話タスクに適しています。

得意とするタスク

  • BERT: 質問応答、文章分類、固有表現抽出など、文章の意味を深く理解することが重要なタスク。
  • GPT: 文章生成、対話、要約、翻訳など、流暢で創造的なテキストを生成することが重要なタスク。

しかし、近年の研究では、BERTのようなEncoder-onlyモデルをDecoderとして利用したり、GPTのようなDecoder-onlyモデルにEncoderのような機能を持たせたりする試みも行われており、両者の境界線は曖昧になりつつあります。

その他のトランスフォーマーモデル

BERTとGPT以外にも、様々なトランスフォーマーベースのモデルが開発されています。例えば、

  • RoBERTa: BERTの学習方法を改善し、より高い性能を実現したモデル。
  • T5 (Text-to-Text Transfer Transformer): あらゆるNLPタスクを「テキストからテキストへの変換」として統一的に扱うフレームワーク。
  • BART: BERTとGPTの長所を組み合わせ、ノイズ除去や文章生成など、多様なタスクに対応できるモデル。

これらのモデルは、それぞれ独自の学習方法やアーキテクチャの改良により、特定のタスクにおいて優れた性能を発揮しています。

まとめ

トランスフォーマーモデルは、Self-Attention機構を核として、自然言語処理の分野に革命をもたらしました。BERTは双方向の文脈理解によって文章の深い理解を実現し、GPTは強力な生成能力によって多様なテキストコンテンツを生み出しています。これらのモデルは、質問応答、文章作成、機械翻訳など、様々な応用分野で活用されており、今後もさらなる発展が期待されます。NLPの進化は、私たちの情報との関わり方や、AIとのコミュニケーションのあり方を大きく変えていくでしょう。